大判例

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広島高等裁判所 昭和40年(う)428号 判決 1966年4月14日

主文

一、原判決を破棄する。

(以下―省略)

理由

<前略> そこで判断するに、原判決挙示の証拠によれば、被告人両名が共謀のうえ、被告人大森に対する自動車運転免許証一通の写真欄に貼付してある被告人大森の写真を剥離し、同欄に被告人三百の写真を飯粒で貼付したことが認められるところ右写真の貼り替えが公文書たる運転免許証の偽造行為といえるか否かについては、それによつて運転免許証の基本的同一性が害され別箇の新たな文書と認められるに至つたか否かによつて決すべきものであるが、運転免許証には免許を受けた者の氏名、生年月日、本籍及び住所を記載するほか本人の写真を貼付することになつており、(道路交通法施行規則第一九条様式第一四)交通取締の立場から運転免許証の提示を求めた場合一応免許証に貼付してある写真並びに生年月日の記載等から該運転者が免許証の名義人であるか否かを確認するのが実際の例であり、免許証貼付の写真が記載せられている本人の氏名、生年月日、本籍、住所等と共に免許を受けた者を特定するについて重要な事項に該当するものということができる。従つて免許を受けた者と異なる写真を貼り替えた免許証は、たとえばその作成名義その他の記載が変更せられず従前と同一のものを利用した場合であつても、その本質部分に加えた全く別箇の免許証と解するのが相当であつて、右写真貼り替えの所為は公文書の偽造に該るというべきである。従つて論旨は理由がない。

二、弁護人三浦強一は原判決が第四の事実として「被告人大森は被告人三百が免許取消処分を受けたので自動車運転免許を有していないことになつたことを知りながら……合計一〇二回にわたる大森運送株式会社の義務に関する被告人三百の自動車運転につき犯意を継続してその都度、同人に同会社の運行している自動車を配車するとともに……については被告人大森名義の自動車運転免許証を貸与して乗車させ、以て同人の無免許運転行為を容易にして幇助し」と判示したことに対し、被告人大森が被告人三百のため配車したことは被告に三百の運転操作ないし技術そのものを直接に容易したものであるとはいえないし、又、被告人三百に自動車運転免許証を貸与する所為はそれがあることによつて無免許運転を決行する決意を誘発するかも知れないが、無免許運転行為自体についてこれを容易ならしめるものではないから何れも無免許運転幇助罪を構成しないと主張する。

そこで判断するに、原判決挙示の各証拠によれば被告人三百が免許取消処分を受けたのちも運転手としての収入を継続確保する為め、敢えて無免許運転をしようとする犯意を有していたこと、又原判示のとおり被告人大森において被告人三百が免許取消処分を受けたことを知りながな同人に対し大森運送株式会社の運行している自動車を配車し、又同人に対し大森名義の運転免許証を貸与して乗車させたことが認められる。しかして無免許運転の犯意を有する従業員たる被告人三百に対し自動車を配車することは同人が無免許運転の犯意に基き具体的な実行々為にでることに与つて力があり、又被告人大森名義の免許証を被告人三百に貸与することは、被告人三百としては、無免許運転中万一交通取締の側から検閲を受けた場合においても、右免許証を呈示することによつて、適法な免許に基く運転たる外観を装い、無免許運転摘発の危険から免れうる可能性を与えられ、同人をして安んじて無免許運転にたずさわることを得しめる結果に導き、これらはともに無免許運転なる犯行を容易ならしめる所為であつて無免許運転の幇助犯と解するのが相当である。

論旨は理由がない。

第二 当裁判所が職権を以て判断するに、原判決は判示第三において被告人三百が昭和三九年二月六日から同四〇年一月二二日までの合計二〇九回にわたり無免許運転をした所為を、又判示第四において被告人大森が被告人三百に対し昭和三九年二月七日から同四〇年一月二二日までの間合計一〇二回にわたり自動車を配車し及び三回にわたり自動車運転免許証を貸与して無免許運転を幇助した所為を以てそれぞれ犯意を継続してなした包括一罪と認定処断していることが認められるが、右無免許運転の罪は道路交通法が道路交通の安全保持の為危険な無免許運転を禁じ、その違反に対して罰則を定めた趣旨に徴すると、社会通念上一箇の運転行為と認められる所為毎に、従つて少くとも原判決別表(一)記載の各欄(二〇九件)の運転毎に各一罪が可立するものと認めるのが相当であつて、被告人三百の内心的意図において当初から生活費を得る為め免許のないまま、将来にわたり継続して運転する意思を有していたとしてもこれを以て総ての無免許運転行為を包括して一罪とみることはできない。被告人大森の右幇助の所為についても同様である。

しかして前科調書によれば被告人三百は右無免許運転の所為継続の間に後記適条欄記載の四回の確定裁判を受けており、各確定裁判前の右各罪はその確定裁判を経た罪とそれぞれ刑法第四五条後段の併合罪になるから同法第五〇条により未だ裁判を受けない右罪について処断することとなり、被告人三百に対しては五箇の刑を、被告人大森に対しては、四箇の刑を科すべきこととなるにもかかわらず前記のとおり原判決はこれを包括一罪とし最後の運転行為の終了した時に無免許運転の一罪が既遂となつたものと解し、被告人両名に対してもそれぞれ一箇の刑を以て処断したのは法令の解釈適用を誤つた違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決はこの点で破棄を免れない。そこでその余の控訴趣意について判断を加えるまでもなく刑事訴訟法第三九七条第一項第三八〇条に従い原判決を破棄することとし、同法第四〇〇条但書に則り当裁判所は直ちに判決する。

原判決の認定した事実(但し原判示第三、第四の記載事実中「犯意を継続して」との記載部分は削除する。)に法律を適用するに、

被告に三百の原示第一の運転免許証偽造の所為は刑法第一五五条一項第六〇条に、原判示第一の右偽造免許証行使の所為は同法第一五八条第一項第六〇条に、原判示第三の各無免許運転の所為はそれぞれ道路交通法第一一八条第一項第一号に各該当するところ、右運転免許証偽造の罪と偽造免許証行使の罪とは手段結果の関係にあるので本来牽連犯として刑法第五四条第一項後段の適用を受くべきものであるが、被告人三百の前科歴をみるに同人には道路交通法違反の所為により有罪の裁判を受け昭和四〇年一月五日確定した前科が存在し、これが右偽造罪の所為と右行使罪の所為との中間に介在しているので、両者は刑法第五四条第一項後段の適用を受くべき牽連犯としてこれを取り扱うことができない。何となれば右確定裁判の前すでに独立して犯罪が成立して既遂となつた右偽造罪は、右確定裁判との同時審判の可能性を有していたものであつて、右確定裁判後行われた行使罪とはすでに同時審判の可能性が否定されていたのであるから両者が手段結果の関係に在るとはいえ同時審判の可能を前提とし、その場合における牽連関係にある数罪の処分上の取扱を規定した刑法第五四条第一項後段の規定はこの場合に適用される余地はない。又この両者は元来科刑上一罪として取り扱われることになつているけれども、手段たる罪、結果たる罪はそれぞれ別箇に独立して各行為の終了した時に既遂となるのであつて、結果たる犯罪行為が終了した時に手段たる罪も既遂となるものではないから、集合犯、営業犯或いは継続犯等の本質的一罪なるものにおいて犯行が確定裁判の前後に跨つたとき右犯罪の既遂を確定裁判後の終つた時期に認めるべき場合とは同一に論ずることはできない従つて本件の場合両者は別箇の二罪として処断されるべきである。<以下―略>(高橋英明 福地寿三 田辺博介)

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